
障害者雇用促進法の改正で企業が取り組むべき対応は?法改正の内容と共に解説
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障害者雇用促進法は、企業に対し、従業員の一定割合以上の障害者雇用を義務づける法律です。すでに実施された2024年・2025年の改正に加え、2026年7月にはさらなる法定雇用率の引き上げや対象企業の拡大が予定されており、中小企業にも影響が及びます。本記事では法改正の全体像と企業が今から準備すべき具体的な対応策をわかりやすく解説します。
※本記事は2026年1月時点の情報に基づいています。
目次
障害者雇用促進法とは
障害者雇用促進法は、正式名称を「障害者の雇用の促進等に関する法律」といい、企業に対して障害者の雇用促進と職場定着を求める法律です。一般的には略して「障害者雇用促進法」と呼ばれています。
同法では、一定規模以上の事業主に対し、法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務を課しています。対象となる障害の範囲は、身体障害者や知的障害者に加え、制度改正を経て精神障害者も含まれるよう拡大してきました。
また、本制度は雇用人数の確保だけを目的とした法律ではありません。障害を理由とする差別の禁止や、障害のある人が働きやすい環境を整えるための合理的配慮の提供など、事業主が守るべきルールも定められています。企業には、採用から定着までを見据えた継続的な取り組みが求められています。
これまでの障害者雇用促進法の改正ポイント
本制度は、社会情勢や雇用環境の変化に応じて段階的に改正されてきました。特に近年は、人手不足の深刻化や多様な働き方の推進を背景に、雇用率の引き上げや対象企業の拡大、障害特性に配慮した制度設計が進められています。ここでは、直近の改正内容として、2024年・2025年に施行されたポイントを紹介します。
2024年(令和6年)4月施行分
2024年4月の改正では、企業に求められる雇用基準が引き上げられ、あわせて支援制度の拡充が行われました。主な改正点は以下のとおりです。
・民間企業における障害者の法定雇用率が2.3%から2.5%へ引き上げ
・雇用義務の対象となる企業規模が、常用労働者43.5人以上から40人以上へ拡大
・週10時間以上20時間未満で働く重度の身体・知的障害者や精神障害者を、0.5人として算定できる特例が開始
・障害者雇用調整金・報奨金の支給方法の見直し
・障害者雇用助成金の拡充・新設
・障害者に対する合理的配慮提供の義務化
この改正により、雇用人数の確保だけでなく、短時間勤務や職場環境への配慮を含めた柔軟な雇用が、より現実的な選択肢となりました。
参照元:「厚生労働省職業安定局|最近の障害者雇用対策について」p.6~9
参照元:事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化
2025年(令和7年)4月施行分
2025年4月の改正では、障害者雇用率制度の公平性を高める目的で、除外率制度の見直しが行われました。除外率とは、職務の特性上、障害者の雇用が特に難しいとされる業種において、雇用率算定時に一定割合を控除できる仕組みです。
・除外率が設定されている全業種で一律10ポイント引き下げ
・これまで除外率が10%以下だった業種は除外率制度の対象外に
この改正により、非鉄金属製造業(非鉄金属第一次製錬精製業は除外)や倉庫業など、除外率が10%以下だった業種は除外率制度の対象外になりました。除外率の引き下げに伴い、建設業、運送業、医療・介護分野など幅広い業種の企業で、障害者雇用人数を増やすため雇用計画の見直しが行われています。
各業種の除外率については、以下のリンクをご覧ください。
参考:厚生労働省|障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について
【2026年(令和8年)7月施行】改正のポイント
2026年7月には、新制度において企業の対応に大きく影響する改正が予定されています。これまで段階的に進められてきた見直しの集大成ともいえる内容であり、より多くの企業が障害者雇用の義務対象となる点が特徴です。特に中小企業では、これまで以上に計画的な対応が求められます。
法定雇用率が「2.7%」に引き上げられる
民間企業の法定雇用率は、2024年4月に2.5%へ引き上げられていますが、2026年7月には2.7%へとさらに引き上げが行われます。これは厚生労働省が示す段階的な引き上げ方針に基づくものです。
例えば、従業員が100人の企業の場合、必要となる障害者雇用人数は2.7人となり、実務上は3人以上の雇用が必要になります。これまで法定雇用率をぎりぎり満たしていた企業でも、追加の採用や雇用形態の見直しが求められる可能性があります。
対象となる企業の範囲が「37.5人以上」へと拡大する
2026年7月の改正では、法定雇用率の引き上げとあわせて、障害者雇用の義務対象となる企業の範囲も拡大されます。これまで2025年時点では、常用労働者数が40人以上の企業が対象でしたが、改正後は37.5人以上の企業が新たに義務の対象となります。
この変更により、従業員規模が40人未満だった中小企業の一部も、初めて障害者雇用の義務を負うことになります。これまで制度対応が不要だった企業ほど、突然の義務化に戸惑うケースも想定されるため注意が必要です。
特に、中小企業では採用余力や職場環境の整備が十分でない場合も多く、法施行直前に対応を進めるのではなく、早期に準備を始めることが大切です。自社が対象に含まれるかを確認したうえで、雇用計画や業務設計を見直すことが求められます。
障害者雇用促進法の改正で企業が行うべき4つの対応
障害者雇用促進法の改正により、企業にはこれまで以上に計画的な障害者雇用への対応が求められています。単に雇用率を達成するだけでなく、業務設計や定着支援まで含めた取り組みが有効です。
ここでは、企業が押さえておくべき4つの対応ポイントを整理します。
自社の現状把握と雇用計画の策定
まず、自社が障害者雇用促進法の雇用義務対象に該当するか、そして現在の障害者の実雇用率がどの水準にあるかを正確に把握することです。
なお、実雇用率の算定対象とすることができる障害者は、それぞれ以下の条件に当てはまる人に限ります。
・身体障害者:身体障害者手帳の所有者
・知的障害者:療育手帳の所有者
・精神障害者:精神障害者保健福祉手帳の所有者
そのうえで、2026年7月の法定雇用率2.7%を基準に、不足する人数を算出し、いつまでに・どのような形で雇用するかを整理した雇用計画を策定します。
参照元:厚生労働省|事業主の方へ 1.障害者雇用率制度《「障害者」の範囲》
なお、障害者の実雇用率は、以下の計算式で算出されます。
【障害者の実雇用率】
(障害者である常用労働者数+障害者である短時間労働者数×0.5)÷(常用労働者数+短時間労働者数×0.5)
ここでいう短時間労働者については、障害の程度や障害種別によって、実雇用率への算定方法が異なるため、次の章で詳しく解説します。
雇用率向上のために「週10時間以上」の短時間勤務を活用
法改正により、障害特性に配慮した柔軟な働き方として、週所定労働時間10時間以上20時間未満の短時間勤務を活用しやすくなりました。精神障害者や重度の身体・知的障害者については、20時間に満たない短時間勤務でも実雇用率に算定できることにより、企業側と労働を希望する障害者双方の選択肢を広げています。ただし、週所定労働時間が10時間未満の場合、障害種別にかかわらず実雇用率の算定対象外となります。
短時間勤務は、フルタイム勤務が難しい人材でも就労を可能にし、採用の間口を広げつつ雇用率向上につなげられる手法です。無理に長時間労働を前提とせず、業務内容や体調に応じた働き方を設計することが、定着率向上にもつながります。
障害種別・労働時間ごとの算定方法は、以下のとおりです。
障害者雇用率の算定方法(週所定労働時間別)
| 週所定労働時間 30時間以上 | 週所定労働時間 20時間以上30時間未満 | 週所定労働時間 10時間以上20時間未満 | |
| 身体障害者 | 1人 | 0.5人 | 算定対象外 |
| 重度身体障害者 | 2人 | 1人 | 0.5人 |
| 知的障害者 | 1人 | 0.5人 | 算定対象外 |
| 重度知的障害者 | 2人 | 1人 | 0.5人 |
| 精神障害者 | 1人 | 1人(特例) | 0.5人 |
※精神障害者の20~30時間未満の1人算定は、当分の間の特例措置
このように、精神障害者については、週20時間以上30時間未満でも1人として算定できる特例が設けられています。自社の業務量や人員構成を踏まえ、短時間雇用を含めた柔軟な雇用設計を検討することが可能です。
業務の切り出しとマッチングを実施
障害者雇用を進めるうえで大切なのは、「障害者に何の仕事を任せるか」を考えることではなく、自社の業務をどのように分解・整理できるかという視点です。既存業務を細分化し、特定の工程や作業を切り出すことで、障害特性に合った業務設計が可能になります。
業務の切り出しとは、例えば、製造現場であれば検品・仕分け・記録作業、小売業であればバックヤード作業やデータ入力など、比較的定型化しやすい業務を抽出することを指します。これにより、障害のある人が無理なく遂行できる業務を用意しやすくなります。
マッチングとは、切り出した業務を一方的に割り当てるのではなく、本人の適性や希望、体調面を踏まえて業務を決定することです。適切なマッチングが行われない場合、早期離職につながるリスクが高まります。
業務の切り出しとマッチングを丁寧に行うことで、雇用率達成だけでなく、定着率の向上にもつながります。結果として、企業側の採用・教育コストの抑制にも寄与します。
定着支援と職場環境の整備(合理的配慮)
障害者雇用では、採用後に長く働いてもらうための定着支援が欠かせません。業務内容や職場環境が合わない場合、早期離職につながるおそれがあるため、企業には合理的配慮に基づく環境整備が求められます。
具体的には、業務手順の明確化やマニュアル整備など、業務の標準化を進めることが有効です。あわせて、教育体制を整え、指導担当者や相談窓口を明確にすることで、障害のある従業員が安心して業務に取り組める環境を構築できます。
また、障害者を受け入れる側である既存従業員に対しても、制度や配慮内容を共有し、不安や誤解を解消する取り組みが大切です。職場全体の理解が進むことで、コミュニケーションの円滑化やトラブル防止につながります。
近年はDX推進によって、業務の見える化やマニュアル作成が進めやすくなっています。切り出した業務のデジタル化・標準化を行うことで、障害者雇用だけでなく、業務効率化や人材育成の面でも効果が期待できます。
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障害者雇用の概要|企業が推進する意義や助成金も解説
障害者雇用促進法の改正で注意したい経営上のリスク
障害者雇用促進法の改正により、雇用義務の対象となる企業の範囲が広がり、未達成企業に対する行政的な関与や金銭的負担のリスクはこれまで以上に高まっています。具体的にどのようなリスクがあるのか、以下にまとめました。
障害者雇用納付金の徴収
法定雇用率を達成できていない企業のうち、一定規模以上の企業(常用労働者数100人超)については、不足する障害者数に応じて「障害者雇用納付金」が徴収されます。これは罰金ではありませんが、未達成の状態が続くと継続的な金銭的負担が生じ、コスト面で不利になります。
なお、障害者雇用納付金制度は、未達成企業から徴収した納付金を、達成企業への調整金・報奨金や各種助成金の財源として再分配する仕組みです。
行政指導と企業名の公表
法定雇用率を大きく下回る企業に対しては、ハローワークなどから採用計画の作成命令や行政指導が行われることがあります。さらに、指導後も改善が見られない場合には、企業名が公表される可能性があります。
企業名の公表は、法的制裁以上に企業イメージや採用活動への悪影響を及ぼすリスクがあります。取引先や求職者からの信頼低下につながるおそれがあるため、早期対応が必要です。
報告義務違反等に対する罰金
事業主は、毎年6月1日に障害者の雇用状況について、管轄のハローワークを通して厚生労働大臣に報告することが義務づけられています(障害者雇用促進法第43条7項)。障害者の雇用状況について、虚偽の報告を行った場合や、ハローワークの指導・調査に応じない場合には、罰則の対象となります。
具体的には、障害者雇用促進法第86条に基づき、30万円以下の罰金が科される可能性があります。金額自体は大きくないものの、コンプライアンス違反により企業イメージの低下のリスクは軽視できません。
参照:e-GOV|障害者の雇用の促進等に関する法律(第四十三条7項、第八十六条)
障害者雇用促進で活用できる助成金・支援制度
障害者雇用を進めるにあたっては、企業側の負担を軽減するための助成金や支援制度を活用することが有益です。採用や定着にかかるコストを抑えながら、無理のない形で雇用を進めることで、法定雇用率の達成と安定した雇用の両立を図れます。ここでは、代表的な制度を紹介します。
特定求職者雇用開発助成金
特定求職者雇用開発助成金は、ハローワークなどの紹介により、就職が特に困難な障害者を継続して雇用する事業主に支給される助成金です。障害の程度や企業規模、労働時間などに応じて支給額が異なり、採用初期のコスト負担を軽減できます。
また、この助成金には、発達障害者や難病患者を雇用した場合に適用されるコースもあり、多様な人材の雇用を後押しする制度となっています。支給要件や対象期間は細かく定められているため、詳細は厚生労働省の公式情報を確認してください。
参照:厚労省|特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
参照:厚労省|特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)
なお、障害者雇用に関する助成金は、障害者雇用率の算定対象とは基準が異なるため、混同しないよう注意が必要です。精神障害者保健福祉手帳を所持していない統合失調症、双極性障害(そううつ病)、てんかんのある方は、原則として障害者雇用率の算定対象にはなりませんが、助成金の対象となるケースがあります。
参照元:厚生労働省|事業主の方へ 1.障害者雇用率制度《「障害者」の範囲》
障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース
障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコースは、就業経験が少ない、または就労に不安のある障害者を、一定期間試行的に雇用できる制度です。企業は実際の業務を通じて、適性や業務遂行の可能性を見極めたうえで本採用を判断できます。
「障害者トライアルコース」では、原則として最長3か月間の試行雇用を行い、その期間に応じて助成が行われます。
また、「障害者短時間トライアルコース」では、週10時間以上20時間未満の短時間勤務を前提とした試行雇用が可能で、体力面や体調面に配慮した雇用を検討する企業にとって有効です。
これらの制度を活用することで、企業は採用ミスマッチによる早期離職のリスクを抑えながら、障害者雇用に取り組むことができます。制度の支給額や要件、手続きの詳細については、厚生労働省の公式情報を参照してください。
参照:厚労省|障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース
障害者雇用相談援助事業
障害者雇用相談援助事業は近年新設された制度で、障害者を雇い入れる事業主が、雇用や定着に関する課題について専門的な支援を受けられる仕組みです。障害者雇用に関するノウハウが不足しがちな中小企業にとって、実務面を支える支援制度です。
本事業では、労働局から認定を受けた相談援助事業者(民間事業者や福祉系法人)が、採用前の準備から雇用後の定着支援までを一貫してサポートします。原則無料で利用できる点も特徴で、業務内容の整理や配慮事項の検討、社内体制づくりなどについて具体的な助言を受けることが可能です。
障害者雇用を初めて行う企業や、これまで定着に課題を感じてきた企業にとっては、外部の専門家の知見を活用しながら体制整備を進められる有効な選択肢となります。制度の利用条件や支援内容の詳細、認定を受けた相談援助事業者の一覧については、厚生労働省および各都道府県の労働局の公式情報を確認してください。
参照:厚生労働省|「障害者雇用相談援助事業」利用のご案内
参照:東京労働局|障害者雇用相談援助事業者について
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まとめ
障害者雇用促進法は、企業に対し障害者の雇用機会確保と職場定着を求める法律です。近年の度重なる改正に続き、2026年7月には法定雇用率の引き上げや対象企業の拡大が予定されており、中小企業にも影響が及びます。今後は、業務の切り出しや適切なマッチングに加え、合理的配慮を踏まえた職場環境整備や定着支援が不可欠です。制度内容を正しく理解し、早期に体制整備を進めることが、法令遵守と持続的な雇用の実現につながります。
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