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ナッジ理論を簡単に解説!重要性や注目される背景、活用事例とは

ナッジ理論を簡単に解説!重要性や注目される背景、活用事例とは

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ナッジ理論は、初期設定やデザイン、タイミングなどの小さな工夫で人の行動をそっと後押しする理論です。業務の効率性や生産性を上げるための手法として、近年日本でも注目が集まっています。本記事ではナッジ理論の基本原則であるNUDGESの法則、理論を実践するフレームワークであるEASTを、活用例とともに解説します。

ナッジ理論とは?

ビジネスの現場から日常生活までさまざまな場面で活用されているナッジ理論について、その定義や背景を解説します。

ナッジとは「行動をそっと後押しする」こと

ナッジは「nudge」という英単語です。研究社の新英和中辞典によると次の意味が含まれます。

1.そっと突く(押す)
2.そっと押して動かす
3.そっと動かす

いずれも「そっと」という部分が共通しています。これは、命令や強制によって行動させるということではありません。むしろ、選択の自由を残したまま、より良い選択に自然と向かうよう後押しすることを意味しています。

ナッジという言葉は、行動変容を促すものとして行動経済学の側面から注目を集めるようになりました。

ナッジ理論の定義と重要性

2008年にナッジ理論を提唱したのは、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授と、ハーバード大学のキャス・サンスティーン教授です。

リチャード・セイラー教授らによると、ナッジ理論とは「経済的なインセンティブ、ルール、罰則を大きく変えたり強制したりすることなく、行動科学的に小さなきっかけを与えて人の意思決定に影響を与える手法・戦略/人々がより良い選択を自ら行えるように、選択肢の提示方法を工夫する理論」で、著書「Nudge : Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness」に詳しく書かれています。この中で重要なのは、小さなきっかけで自発的な行動を促すという点です。強制せずに自発性を引き出せるため、現場の反発を抑えながら成果に近づけます。また、選択の自由を残しながらも、費用対効果が高いことも特徴です。

リチャード・セイラー教授はこの理論を含む行動経済学への貢献者として2017年にノーベル経済学賞を受賞しました。また、2010年にイギリスのキャメロン首相(当時)が、政府内に行動経済学を政策に活かすためのナッジ・ユニットを設置しました。これをきっかけに他の政府や公共団体でも同様の動きが見られ、日本でも2017年に環境省のもと日本版ナッジ・ユニット(BEST)が設立されました。

現在は公共団体のみならず、民間企業が営業やマーケティング活動でもナッジ理論を含む行動経済学の活用をはじめており、幅広い分野で注目されています。

ナッジ理論が注目される背景

ナッジ理論が注目されている背景には、主に以下のような要因が挙げられます。

まず、これまで行われてきたような、告知や教育、罰則だけでは行動が変わりにくくなっていることです。2023年に三菱総合研究所が発表した報告書によると、人が行動しない原因のひとつに「行動の必要性を感じない」があります。

参照元:三菱総合研究所『ナッジ・行動経済学を活用した 行動促進策の設計法』 

告知や教育、罰則を設けたところで、受け取った相手が必要性を感じなければ、行動変容が起こりにくいとされています。最近は過度な規制や金銭的な罰則に頼らない、よりソフトなアプローチが求められています。

次に、選択肢の肥大化で意思決定が複雑化し、決められない・後回しにする傾向が強まっていることです。近年はインターネットの普及などで手に入る情報が肥大化しています。こうした情報過剰負荷、選択過剰負荷が行動から人を遠ざけている可能性が示唆されています。

さらに、現場に大改造を強制しない低コストの改善策が求められていることです。特に日本では、生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)が大きく減少し、少ない人員で大きなアウトプットを出していかなければなりません。

参照元:内閣府『高齢化の状況』

業務の効率化に対する施策にも低コストという側面が求められています。そのため、現場に大きな変革を強いる施策は限られてきており、より低予算で費用対効果の高い施策が求められています。

実際に現場では、業務を劇的に変化させるよりも、業務の各段階を徹底的に実行させる「業務の徹底化」などといった手法がより注目されています。

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ナッジ理論の基本原則|行動変容を促す「NUDGES」

ナッジ理論は、NUDGESの語呂合わせにもなっている6つの基本原則から構成されています。

・iNcentives(インセンティブ)
・Understand mappings(マッピングの理解)
・Defaults(デフォルト)
・Give feedback(フィードバックの提供)
・Expect error(エラーの予期)
・Structure complex choices(複雑な選択の体系化)

それぞれについて簡単に解説します。

iNcentives(インセンティブ)

自発的な動機を促すべく、メリットを与えることです。インセンティブの対象は金銭だけに限定せずに設計します。例として、称賛の可視化、達成バッジ、ランキングや表彰、社会的評価などが挙げられます。インセンティブが行動に与える影響を正確に理解することが重要であり、周囲に明確なものを設定する必要があります。

Understand mappings(マッピングの理解)

選択肢と結果の結びつきが分かりやすく理解できるように、提示することです。たとえば、配送料の選択肢ごとに「到着目安」を表示したり、契約プランの年間トータルコストを見やすく比較したり、食品の栄養成分を色分けして健康への影響を伝えたりすると、選んだ結果が想像しやすくなります。結果が見えると、自発的な選択を行いやすくなります。このように、将来の結果を想像しやすいように情報を整理することで、選択を後押しする手法です。

Defaults(デフォルト)

何も選択しなかった際に自動的に適用される選択肢のことです。ナッジ理論では、最も推奨される選択肢をはじめから設定しておくことを意味します。たとえば、社内のエアコンについて、環境に優しい設定をデフォルトにしておくと、手間なく安全な運用を選択しやすくなります。人はデフォルトの選択肢をそのまま受け入れる傾向が強いことを活かした原則です。

Give feedback(フィードバックの提供)

行動の結果を即座にフィードバックすることで、学習と改善を自発的に促す原則のことです。たとえば、消費電力をリアルタイムに表示させることで、節電行動を自発的に促すような仕組みが挙げられます。人は結果をすぐ知るほど、行動を調整しやすくなります。特に「節電できている」などといったポジティブなフィードバックは、行動をより強化し継続させる効果があります。撮影した結果をすぐに表示するデジカメや、飲食店の注文用タブレットなども、フィードバックによる自発的な行動の催促を活かした機能です。

Expect error(エラーの予期)

人はミスを絶対にしないということはありえません。そこで、人はミスを犯すことを前提に起こりうるエラーを予測し、失敗しにくい環境を設計する原則です。たとえば、入力フォームの記入後に確認画面を表示することで、入力ミスや未入力など、意図しない行動を未然に防ぐ仕組みは、この原則を活用しています。スマホの画面の自動ロックなども同様の例にあたります。

Structure complex choices(複雑な選択の体系化)

選択肢が多いほど、人は迷った末に決定を先延ばしにします。そこで、複雑な選択肢をシンプルに整理し、意思決定の負担を軽減する原則です。たとえば、多くのプランがある場合におすすめのプランを提示する手法や、比較軸をそろえたシンプルな比較表を用意して、検討しやすくする手法などが挙げられます。

ナッジ理論の実践的フレームワーク|施策評価の「EAST」

ナッジ理論を活用した施策が有効かを評価・チェックできるフレームワークとして有名なのが、「EAST」です。EASTは2014年にイギリスのThe Behavioural Insights Team が発表し、2024年に改訂・更新されました。それぞれの頭文字から構成されるEASTの4つの要素は以下です。

・Easy(簡単・簡素)
・Attractive(魅力的・印象的)
・Social(社会性)
・Timely(タイミング)

これらの各要素について解説します。

Easy(簡単・簡素)

「Easy(簡単・簡素)」は、手間をできるだけかけずに望ましい行動を簡単に実行できるよう、障害を取り除くための要素です。たとえば、申し込み手続きのプロセスを簡略したり、申込書自体を簡素化したりすることで、申込率の向上を目指します。これは、行動に移すハードルが低いほど実行されやすくなる、人の心理・行動特性を活用しています。

また、2024年の更新版では、NUDGESのデフォルトを活かした手法も挙げられています。たとえば、スイスでは再生可能エネルギーの選択肢を各世帯にデフォルトとして提示したところ、世帯の普及率が3%から80%へと大きく向上しました。また、効果は数年後も持続していました。

参照元:https://www.bi.team/wp-content/uploads/2014/04/BIT-EAST-1.pdf#page=3

Attractive(魅力的・印象的)

「Attractive(魅力的・印象的)」は、選択肢を魅力的にするための要素です。望ましい行動が魅力的に映るように工夫することで、自発的に望ましい行動を実行させやすくします。たとえば、目を引くデザインや色使いで注意を引きつける手法や、メリットを強調したり、楽しさや面白さを加えたりする手法が取られます。
また、NUDGESのインセンティブにあたる手法もこの要素を活かしています。2024年の更新版に記載されている例では、フィリピンで、特定の月に達するまで預金の引き出しを自主的に制限した預金者が、貯蓄額を82%増加させたことが報告されています。

参照元:https://www.bi.team/wp-content/uploads/2014/04/BIT-EAST-1.pdf#page=4

Social(社会性)

「Social(社会性)」は、他人の行動や社会の基準に影響されやすい人間の特性を利用して、行動変容を促すために必要です。たとえば、「同僚の80%が完了」や「同業種の導入率は70%」といった情報を提供し、人の社会性に働きかけることで同調行動を引き出します。有名人や専門家のお墨付きを活用し、信頼性を高めるのも有効な手段です。

Timely(タイミング)

「Timely(タイミング)」は、最適なタイミングを狙って施策を打つための要素で、たとえば、行動を検討しているタイミングで情報や選択肢を提示します。2024年の更新版では、カタールで断食期間中に糖尿病検査を促したところ、検査を受けた人数が大幅に増加した例が報告されています。糖尿病検査には一定の断食が必要であり、それが断食の期間と重なったタイミングでした。このように、行動変容の意欲が高まっているタイミングにナッジを仕掛けることで、行動変容を自然に促進させられます。

参照元:https://www.bi.team/wp-content/uploads/2014/04/BIT-EAST-1.pdf#page=5

ナッジ理論が機能しやすいビジネス環境は?

望ましい行動が妨げられるおそれがある以下のような状況では、ナッジ理論が機能しやすくなります。

・顧客や従業員の行動変容が課題となっている状況
・選択肢が多岐にわたり、意思決定が複雑な状況
・選択の結果がイメージできない状況
・フィードバックが乏しい状況

たとえば、顧客の行動変容が課題となっている状況では、最も望ましい選択肢をデフォルトの状態にしておく、動画や画像を使って商品の利用シーンを分かりやすく具体化する、などが考えられます。
選択肢が多岐にわたり意思決定が複雑な状況では、選択肢自体を絞り込んだり、比較表を使って分かりやすく整理し、意思決定の負担を軽減する、などが考えられます。

ビジネスでのナッジ理論の活用例

ナッジ理論は、民間企業でも活用の可能性が検討されています。特に営業・マーケティング・人事部門で業務の効率化をはじめ、大きなメリットをもたらすと考えられます。ここでは、いくつかの活用例を紹介します。

営業部門での活用例

顧客に商品やサービスを購入してもらう状況で、複数あるプランの中から最も望ましい行動を選択できるように、ひとつの選択肢を魅力的にするという手法があります。たとえば、提案書に「人気No.1プラン」と記載し、特定のプランへの契約を促すというやり方は、まさにAttractiveの有効な活用例です。

また、日本の松竹梅の法則と類似しているのが、「ゴルディロックス効果」という心理効果です。人は無意識に真ん中の選択肢を選ぶ傾向にあります。「松竹梅」や「プレミアム・スタンダード・バリュー」という選択肢の中では、竹・スタンダードといった選択肢が選ばれやすいとされているため、利益率が高いものや、一番売りたい商品を真ん中の選択肢に置くといった施策が、ビジネスの場面では有効と考えられます。

ほかにも、顧客が迷っているときに、他の顧客のレビューを提示して後押しする、購入手続きのフォームに、完了までのステップを視覚的に表示して理解を助ける、などの例があります。

マーケティング部門での活用例

メールマガジンに代表されるメールマーケティングの場面でもよく利用されます。たとえば、商品サイトへのクリックの誘導率を高めるために、メールマガジン限定でクーポンを配布して購買意欲を高めたり、期間限定のキャンペーンを実施し、「今だけ」という心理を刺激したりする施策、決算期直前の値引きセールなどもTimelyを活用した価格戦略として有効です。

また、Webサイトの登録フォームに「登録はこちら」と大きく表示するのも有効です。大きなバナーをクリックするだけで登録を済ませられることは、サイト訪問者の心理的ハードルを下げ、迷うことなく簡単に目的を果たせるように促せます。また、そのバナーの色や形などを際立たせることは、訪問者の直観的な理解にも役立ちます。

人事部門での活用例

たとえば、社内研修や勉強会のWeb申し込みフォームは、デフォルトを「参加」に設定しておくことで参加率を向上させる施策があります。また、受講後アンケートは、自由記入ではなくあらかじめ選択肢を用意しておき、短時間で終わらせられるようにしておく、回答後のインセンティブを事前に提示する、「すでに〇%の参加者が回答済みです」などのメッセージで人の社会性に働きかけ、フィードバックを習慣化させる、などの施策があります。

また、オフィスのレイアウトを工夫し、偶発的なコミュニケーションが生まれるスペースを設けたり、社内システムに「同僚とのランチやコミュニケーションを促すメッセージ」を表示したりすることで、社内の交流・議論を活発化させる活用例も挙げられます。

ナッジ理論を活用するメリットと注意点

ナッジ理論のメリットと、最大化するための注意点を併せて解説します。

メリット

ナッジは、あくまでも自発的な行動を促すもので、強制するものではありません。また、身近なところからすぐに取り組めるので、以下のようなメリットを享受できます。

・行動を強制しないので、人々は不快感や反発を抱きにくい
・施策の導入コストが比較的低く、手軽に試すことが可能

ナッジは少ない予算や限定的なリソースでも実行しやすく、効果が感じられないときは、柔軟に修正することも可能です。

注意点

ナッジの実行には、いくつかの点に留意しておく必要があります。

ナッジは小さなところから簡単に着手できますが、同時に効果検証が必須です。実施した施策の効果を検証し、人が意図しない行動を引き起こさないかどうか、注意深く見守る必要があります。期待通りの効果が出ないときは、A/Bテストなどを利用して意図せぬ行動や副作用が生じていないかを確かめ、必要に応じて軌道修正することが重要です。

また、誘導が操作と見なされるリスクも考慮する必要があります。特定の行動に操作されていると思われてしまうと、不信感につながりやすくなります。特に、企業側の利益追求のために、利用者側が不利になるような悪意のある誘導(スラッジ)は避けなければなりません。たとえば、サブスクの解約方法が複雑で分かりにくい、解約の意思を示さなければ自動加入となってしまうような設計などです。これらはいずれも利用者の選択の自由を奪い、倫理的な問題に発展するおそれがあります。あくまでも選択の自由を残しながら、いつでも簡単にやめられる選択肢を残しておく設計が求められます。

ナッジ単体の効果は一時的になりやすいことも覚えておく必要があります。ナッジは人の行動を望ましい方向にそっと後押しすることであり、価値観自体を変えるものではありません。そのため、ナッジがなくなっても行動を習慣化させることが難しく、もとの行動に戻ってしまうことも考えられます。持続的な行動変容を促すには、習慣化できるような仕組みや工夫がさらに必要です。

まとめ

ナッジ理論は、強制することなく小さな後押しで人々の行動を望ましい方向に促す理論で、行動経済学の重要な実践方法として注目されています。この背景には、罰則や教育だけでは行動変容が難しいこと、情報過多で意思決定が複雑化していること、低コストの改善策が求められていることなどが挙げられます。この理論は、選択の自由を残しつつ低コストで効果を得られる点が特徴で、政府や公共団体から民間企業まで、さまざまな分野で活用が広がっています。ナッジは人々に選択の自由を残しながら、より良い選択と持続的な行動変容を促すために、倫理観を持って活用することが大切です。