PDCAを上手く回すには?手順や代わりのフレームワークを解説
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PDCAサイクルを取り入れると、具体的な数値目標の設定や業務効率の向上につながる行動を実行しやすくなります。一方で、PDCAが変化の激しい現代社会と相性が悪い場面があるのも事実です。この記事ではPDCAサイクルのメリットや上手く回すコツのほか、新たに注目したいフレームワークについても紹介します。
目次
PDCAサイクルとは?
PDCAサイクルは、品質管理の向上を目的として、1950年代に米国の統計学者W・エドワーズ・デミング氏が普及させた手法です。「Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)」の4つのステップを、円を描くように繰り返すことで、組織が継続的に成長し、目標の達成と業務効率の向上を目指します。特に日本企業では、トヨタ自動車の生産管理方式に取り入れられたことで、品質管理の基本としてこのフレームワークが広く知られるようになりました。
一方で、ビジネス環境の変化に伴い近年は「PDCAは時代遅れではないか」と指摘されることもあります。そのため、より柔軟でスピード感のある新しいフレームワークに注目が集まっています。この記事の後半では、PDCAに代わる新たな手法についても詳しく解説します。
PDCAサイクルの4つのプロセス
「Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)」の4つのプロセスについてそれぞれ取り上げます。
Plan(計画)
出発点となる「Plan(計画)」は、業務目標を決め、その目標を達成するための実行方法を考える大切な段階です。この段階では、まず目的の本質をしっかりと見極め、目標達成に向けて具体的で実現可能な行動計画を作ります。
計画を立てる際、どのような効果や成果が期待できるかを論理的に予測することが重要です。なぜなら、この見積もりが後に続く3つのプロセスの精度や効率に大きく影響するためです。計画が曖昧だと、PDCAサイクルが形だけのものになってしまう可能性があります。
Do(実行)
「Do(実行)」では、Planで考えた戦略を具体的な行動に変え、目標の達成を目指して着実に取り組みます。ただし、単に計画した作業をこなすだけではありません。計画どおりに進めながら、必要に応じて細かな調整も行います。加えて、予想外の課題や環境の変化が起きたときに柔軟に対応する力も求められます。
ここでは実施した内容や進み具合、成果を数字などできちんと記録しておくことが大切です。このような記録は、次のCheckの段階で正確な振り返りや改善につながります。
Check(測定と評価)
「Check(測定と評価)」では、実行した結果をDoで集積した客観的なデータから振り返ります。当初の計画から見てプロセスに問題点がなかったのかを確認するとともに、目標がどの程度達成できているかを分析します。
分析においては、上手くいった理由と失敗した原因を明確化することで、計画そのものが適切だったかということや実行時の問題点が明らかになります。これらの分析結果に基づき、いわゆる「計画と実行のズレ」を検知することで、次のActionで必要な改善案を策定していくための材料とします。
Action(対策と実践)
「Action(対策と実践)」は、PDCAサイクルの最後のステップであり、同時に次の改善へとつなげる出発点です。Checkの段階で明らかになった課題や改善すべきポイントを盛り込んだ改善案を作成して、実践に移します。
改善する際には、必要に応じて計画や手順を見直し、上手くいったプロセスは標準化して組織全体に広げていきます。このような対応を行うことで、次のPlanではより確度の高い行動計画が立てられるようになり、ひいては継続的な改善活動が促進されます。
PDCAを回すメリット
業務やプロジェクトを継続的に改善し、成果を最大化するために有効な手法であるPDCAサイクル。導入するメリットは、以下の4つです。
目標が明確に可視化される
これまで曖昧だった目標が具体的になり、達成すべきゴールが明確になるのが特徴です。計画の段階で目標を数値や具体的な行動として示すことで、実行や評価の過程で進捗が常に確認できるようになります。また、目標が可視化できることでチームや個人が目指すべき方向性を理解しやすくなるため、目標達成に向けて一丸となって取り組みやすくなるといったメリットも生まれます。
取り組むべき改善に注力できる
Checkの段階では、感覚に頼らず客観的なデータに基づき評価を行うため、プロセスのどの時点に問題があるのか、またどこを改善すべきかが明確になります。これにより、改善に向けてやみくもにトライするのではなく、実情に沿った改善策をはじめから出せるようになります。言い換えると、効果が最も高い改善点にリソースや労力を集中させることができるのです。
継続的な業務改善が可能になる
PDCAサイクルは、一巡するだけではなく何度も4つのプロセスを繰り返していくことで、継続的に業務を最適化できるフレームワークです。サイクルの中で小さい改善を積み重ねていくことは、長期的に見ると組織全体の業務効率の向上に直結します。継続的な業務改善を実現するためには、それぞれの段階における結果に一喜一憂するのではなく、その要因をしっかり分析し、次の行動に活かすことが大切です。
業務改善ノウハウが蓄積する
PDCAサイクルを継続して運用することで、成功の理由や失敗の原因、そして改善の工夫などの全ての流れが記録として残ります。これらは組織にとって大切な知的資産であり、積み重ねたノウハウは、今後の事業活動においての道しるべとなります。また、これらのノウハウを組織全体で共有することで、個人のスキルが高まるだけでなく、チーム全体の対応力も向上します。新しい課題に直面したときも、過去の知識や経験を活かして、迅速かつ適切な判断が下しやすくなります。
PDCAを上手く回すコツ
PDCAサイクルを効果的に回していくためには、それぞれの段階で押さえておくべきコツがあります。ここでは4つのポイントについて解説します。
Plan(計画)の段階で具体的な数字目標にまで落とし込む
計画を立てる際には「売上を上げる」といった漠然とした目標ではなく、「第1・第2四半期でWebサイトからの問い合わせ数を20%増やす」といった具体的な数値目標を設定します。5W2H(誰が・いつ・何を・どこで・なぜ・どのように・どれだけ)を活用し、計画の内容をより明確にしましょう。数値目標は行動の指針となり、期限を決めることで逆算して計画を立てやすくなり、実行力も高まります。
加えて、達成度がわかりやすくなることでDo・Check・Actionにおける判断基準も明確になります。
実行可能な計画を練る
計画を立てる際には、理想を描くだけでなく、実際のリソース(人員・時間・予算)を考慮したうえで、実行可能な内容にすることが大切です。無理な目標を掲げてしまうと、実行の段階で挫折や現場のモチベーション低下を招いてしまい、結果としてPDCAサイクルが回らなくなることが考えられます。
そのため、現状をしっかり分析し、現場の意見を取り入れたうえで「少し頑張れば達成できる」レベルのKPI(重要業績評価指標)を設定することが大切です。
目標達成のためのアクションプランには優先順位をつける
目標を達成するためには、さまざまな施策を組み合わせて進める必要があります。そのため、アクションプランを立てる際には、タスクごとに優先順位を決めることが大切です。もし全ての施策を同時に進めてしまうと、人や時間といったリソースが分散してしまい、結果として十分な成果が得られない可能性があります。効果の大きさや緊急性を基準にタスクを整理すれば、最も重要な施策に集中でき、効率よく成果を出すことが可能です。
効果測定を定期的に行う
Doで施策を実行した後は、定期的に効果を測定することが、PDCAサイクルを成功させるための重要なポイントです。Checkでは、一度だけ評価するのではなく、計画期間を通して継続的にデータを集め、進捗状況を見える化します。こうすることで、目標からのズレを早い段階で発見でき、Actionにおいて修正や改善も素早く行うことが可能です。
PDCAが「古い」と言われる理由とは
近年、ビジネス環境の変化や新しい改善手法の登場により、PDCAサイクルが「古い」と判断されてしまう場面もあります。ここでは、その理由や背景について紹介します。
PDCAを回すことが目的化してしまう
PDCAサイクルはあくまで手段であり、これを回すことで目標の達成や課題解決を図っていくものです。しかし、決められたPDCAを回すことそのものに注力してしまい、成果や改善につながらないケースが数多く存在します。このような状況に陥ると現場の負担増となるだけで、本質的な業務改善にはつながりません。
中長期的な視点での改善手法である
Plan・Do・Check・Actionのそれぞれのステップを経ていく必要があり、かつ繰り返すことで成果が生まれる改善手法であるゆえに、実際に効果が出るまでに時間がかかります。一方、現代ビジネスは変化が激しくより素早い意思決定や短期間での成果が求められることが増え、PDCAサイクルのスピード感が合わないことがあります。
特にスタートアップや新規事業のように、市場に迅速に対応する必要がある場面では、PDCAを導入することが足かせになる可能性があります。
革新的なアイデアが生まれにくい
PDCAは、既存の業務を改善するうえで効果的な手法です。しかし、この方法は枠組みに沿って計画を立てたり評価したりすることが中心となるため、新しい発想が生まれにくいというデメリットがあります。なぜなら、PDCAは過去の事例や成功体験に基づき計画を立てて進めるため、どうしても前例にとらわれやすく、現状の維持や小さな調整にとどまりがちだからです。
一方で、市場が求めているのは、ときには常識を覆すような革新です。そのためには、PDCAの枠組みだけに頼るのではなく、外部の視点や異なる分野の知識を積極的に取り入れる姿勢が欠かせません。
PDCAとあわせて注目したいフレームワーク
現代はVUCA(ブーカ)の時代と呼ばれ、変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が高まる中、予測不能な変化が日常化しています。こうした環境では、PDCAサイクルだけでは対応できない場合もあります。ここでは、PDCAに代わるフレームワークを解説しますので、ぜひ参考にしてください。
VUCA時代について詳しくは以下のページで解説しています。
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VUCA時代を生き抜く組織変革の重要性|具体的な備えは?
OODAループ
OODA(ウーダ)ループは、変化が激しい環境で素早く意思決定を行うための考え方です。これは「Observe(観察)・Orient(方向付け)・Decide(決定)、Act(実行)」の4つのステップを柔軟に繰り返すことで、状況に合わせた最適な行動を選び出します。従来のPDCAサイクルが計画に多くの時間をかけるのに対し、OODAはスピードとすぐに対応する力を重視しています。そのため、特に競争が激しい市場や、緊急の対応が必要な場面で大きな効果を発揮します。
STPDサイクル
STPDサイクルは、「See(見る)・Think(考える)・Plan(計画する)・Do(実行する)」の4つのステップからなる改善手法です。PDCAサイクルとの大きな違いは、Planの前に現状をしっかり観察し、考察する段階があることです。このステップを加えることで、課題の本質を正確に見極めたうえで、より的確な計画を立てられます。その結果、実行段階でのやり直しが少なくなり、改善のスピードや質が高まります。また、STPDサイクルは複雑な課題にも論理的に対応できる柔軟性がある点も大きな特徴です。
DCAPサイクル
DCAPサイクルは「Do(実行)」から始まる実践重視の改善手法です。その後「Check(評価)・Action(改善)・Plan(計画)」と進みます。まず素早く行動して現場のリアルな反応をつかみ、その結果から改善策や計画を立てていくスタイルは、変化が激しい環境や新規事業に特に効果的です。
PDRサイクル
PDRサイクルは「Plan(計画)・Do(実行)・Review(見直し)」の3つのステップからなるシンプルな改善方法です。従来のPDCAサイクルにおけるCheck(確認)とAction(改善)を「Review(見直し)」にまとめることで、サイクルをより速く回せるようになり、柔軟に対応しやすくなります。特に、スピードが重視される現場や、気軽に改善を進める文化を作りたい組織に向いています。また、短い期間で仮説を試し、すぐにフィードバックを得たい場合にも効果的です。
まとめ
目標を明確化し、達成するために実行に移すことで計画に不足している点を洗い出し、さらに改善策へとつなげられるのがPDCAサイクルです。目標が見える化することでチーム・個人が一丸となって行動できるといったメリットもありますが、変化の激しい現代社会においては、中長期的な視点が必要なPDCAサイクルが適さない場面も出てきています。それゆえに、OODAループやSTPDサイクルといった新たなフレームワークが登場しています。
「自社に必要な変革とは何か」を見据えて、必要に応じて適切なフレームワークを選択していくことが重要です。
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