
AI導入で逆に工数増加?現場の「獣道」を整理しROIを高める方法
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近年、生成AIなどの導入が進む一方で、「AIを入れたが効果が感じられない」「PoC(概念実証 )止まりで、業務が変わらない」といった課題に直面する企業は少なくありません。この原因はツールの性能ではなく、業務構造にあります。既存の業務フローを変えないままAIを導入すると、属人化した判断や例外対応が障壁となり、結局「人が手作業でカバーする状態」から抜け出せません。その結果、投資に見合う効果が出ず、現場の負担も変わらないままになってしまうのです。
そこで今回、株式会社スタディスト インキュベーション本部 業務自動化支援推進室 室長である藤江彩子が登壇したセミナー「AI投資のROIを最大化する業務再設計の技術」の内容をもとに、AI活用をツール導入で終わらせず、組織全体の生産性向上につなげるための業務改革の進め方をお届けします。
目次
生成AI導入企業の半数以上が直面する「活用方法がわからない」壁
株式会社スタディスト インキュベーション本部 業務自動化支援推進室 室長 藤江彩子(以下、藤江):私は現在企業の生産性向上のためのAI活用前提の業務プロセスを設計し、持続性の高い業務改革を支援する活動に従事しています。
AIを導入したものの、現場の業務プロセスへの組み込みや活用までは至っていない、というお声をよく耳にします。
総務省が発表しているデータによると、日本企業の55.2%がすでに生成AIを業務で活用していると答えています。AIの導入自体はかなり浸透してきているものの、一方で最大の壁になっているのが、30%の企業が「効率的な活用方法がまだわからない」と回答している点です。つまり、導入が進んでいても、業務レベルでの活用や定着は不十分なのが実態です。
このような状況は、多額の費用と時間をかけたAI投資が期待したリターンを生み出せず、デジタル赤字(投資額がリターンを上回り続け、コストだけが積み上がる状態)に終わってしまうリスクがあります。
ROI(投資対効果)の視点から考えてみると、「AIにどこからどこまでを任せたらいいかわからない」という活用方法が未定の状態では、業務全体の工数が変わらず、効果が得られません。
その結果、業務フローの一部をAIに置き換えてみたというPoC(概念実証 )の繰り返しや、導入後の推進担当者への問い合わせ対応といったコストばかりが膨らんでしまいます。こうした効果の停滞とコストの膨張が、AI投資をデジタル赤字へと導く構造的な理由なのです。
マニュアル外の例外処理がAIの足を引っ張る「現場のリアル」
藤江:私たちはAIや自動化の技術がある程度汲み取ってくれると過信してしまいがちですが、あくまでルール化された表通りしか走ることができません。それなのに、経営者の方々が想像するプロセス以上に、実際の現場の業務はイレギュラー対応が連続する獣道ですよね。
例を挙げると、私は前職で小売店のセールスプロモーションや製造業でのマーケティング業務を経験してきましたが、顧客ごとの商慣習や独自ルールがあり、そこにいかにきめ細やかに個別対応できるか、マルチタスクで対応していくかという事自体が価値になっている業界でした。
顧客に向き合えば向き合うほど、例外処理への対応力が培われていく……。こういった険しい道を進む状況が、多くの企業に共通する課題だと言えるでしょう。まるでAIという高性能なスーパーカーが獣道を進み、ぬかるみにはまって動けなくなっている状態かもしれません。
このように、マニュアルやフロー上ではAIで整理ができた業務に見えていても、実際の現場では、担当者だけが知っている例外処理や個別対応が随所に存在するのです。
このイレギュラー対応が残っている限り、AIが業務の最初から最後まで通して自動化するというところまで行くのは難しいかもしれません。
ベテランの「個人知」を放置するとAIは二度手間の道具になる
藤江:AIを導入し、お客様へのメールの文面作成が数秒に短縮されたとします。これはこれで素晴らしい進歩ですが、その後に社内の承認が必要だったり、CRM(顧客管理システム)への登録ルールが人によってまちまちで統一されていなかったり、別部署に連携する判断が必要だったりした場合、どうなるでしょうか。
AIが処理しきれなかった業務の隙間に関して、「この文面は誰に送る準備をして、誰に承認の依頼を取るのか?」といった調整の作業が発生し、それを人間がカバーし続けることになってしまいます。
その結果、特定の作業を高速化できたとしても、業務全体の総工数がほとんど変わらないというケースに陥ります。
このように、自動化を考える際に最も陥りやすい落とし穴が、既存業務の自動化です。
本来不要な業務を引き算せずに、既存のフロー自体にAIを足し算するような形を取ってしまうと、周辺の不要な業務がそのまま残ってしまいます。
まずは、どの業務が不要なのかを明確にしましょう。例えば、日報を書くとしたら、「そもそもこの日報は誰が何のために作成しているのか?」という目的から逆算し、不要な業務をなくしてしまう、あるいは変えてみるというプロセスです。
そしてもう1つ、AI導入を阻む最も大きな壁が、個人知、つまり属人化の罠です。
ベテランのエース社員しか知らない判断基準が個人の記憶の中に残ってしまっている限り、AIはその判断自体を代行することはできません。
結果としてAIは部分最適に終わり、AIが作ったものをベテランの方が最後に全部チェックをするという二度手間が発生します。
AI活用の成否を分けるのは、高性能なツールを選ぶことではなく、それを受け入れる業務の土壌が整っているかどうかです。
AIという道具を導入する前に、まずその道具が走りやすいようにしっかりと地ならしをしていくこと、業務を可視化して判断基準を整理することが、投資に見合うリターンを得るための最短ルートになるのです。
まとめ
多くの企業が生成AIを導入する一方で、約3割は活用方法が分からず投資対効果が得られないデジタル赤字のリスクを抱えています。その原因は、現場の業務が独自の例外対応が連続しているためです。
AIはルール化された道しか走れないため、こうした例外処理に対応できず、結局人間が手作業でカバーし続けることになります。既存の業務フローの不要な業務を引き算せずにAIを足し算しても、全体の工数は変わりません。
最終的にはベテランの頭の中にしかない判断基準に任せることになるなど、個人知の属人化です。AI活用の成功はツール選びではなく、属人化を解消できそうな業務を可視化し、AIが機能しやすい土壌を整えるアプローチにかかっています。後編では、業務自動化を成功させる方法について、具体的に解説していきます。
(後編はこちらから)







