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製造業DX成功の秘訣は、決めたことを確実にやりきる仕組みづくりにあり

製造業DX成功の秘訣は、決めたことを確実にやりきる仕組みづくりにあり

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創業100年を迎える老舗メーカーMipox株式会社の代表取締役社長として、社内のDX化を推し進めている渡邉淳氏。業務効率化を徹底する姿勢の背景には、入社当時にテクノロジーの威力を肌で感じた原体験と、経営者としての強い意志があります。

本記事では、渡邉氏に業務効率化ツールの導入の背景や経営トップとしての姿勢についてお話を伺いました。DX化の浸透が遅れがちな製造業の現場で、新たな仕組みを浸透させるためにはどのような工夫が必要なのかを探ります。

はじめに

渡邉淳氏は、国内外の大学に在籍した後、Mipox株式会社に入社します。製造現場や営業、海外赴任などを経て2008年に取締役社長に就任し、売上32億円で12億円の赤字という状況から、不採算事業撤退や拠点統廃合を経て赤字脱却を果たしました。自身の原体験からDX推進をリードし、強いリーダーシップを発揮し続けています。

現場からキャリアを始め、社長就任後は赤字脱却のための変革を推進

――Mipox株式会社の会社概要についてお聞かせください。

Mipox株式会社 代表取締役社長 渡邉淳氏(以下、渡邉):当社は研磨製品や研磨装置の製造・販売、コーティング受託、研磨受託の事業を行う研磨関連メーカーです。1970年代から研磨の分野に参入し、「塗る」「切る」「磨く」の技術を用いてハイテク分野で力を発揮しています。

――渡邉様はどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。

渡邉:私自身は1994年に当社へ入社し、製造現場での勤務からキャリアを始めました。そして国内営業や海外営業を担当し、マレーシア駐在員や米国子会社赴任なども経験しました。その後は半導体部門長や海外支援部門長を経て、2007年に取締役、2008年に先代から引き継ぐ形で現職に就任しています。

就任時は売上32億円で12億円の赤字という危機的な状況でしたが、不採算事業撤退や拠点統廃合を経て赤字脱却を実現させました。

海外の大学に在籍後に、Mipoxへ入社する際はアメリカの子会社で営業職のオファーをされましたが、当時すでに当社で働いていた姉に相談したところ、「製造業なのだから、まずは現場で働くべきではないか」と言われたのです。

入社後の人事に関しては会社に決定権がありますが、入社前の段階では自分の意見を伝えても良いと考えていたため、アメリカの子会社ならば入社はしないですが、工場で採用してくれるのであれば働きたいと伝えました。その結果として、工場勤務からキャリアを始めることになります。

はじめに現場を経験したからこそ当社の強みについて身を持って実感することができ、その経験が現場主導のDX化にも活きていると思います。

1995年の電子メール導入が製造業DXの原体験に

――デジタル化やDX推進の関心を高めたきっかけはあったのでしょうか。

渡邉:入社した翌年である1995年、電子メールを導入するプロジェクトに関わったことがDX推進を積極的に推進するようになった原体験です。先輩からの誘いを受けて、電子メールを社内で活用するための小さなプロジェクトに参加することになったのです。このプロジェクトは、アメリカと東京の昭島にある本社、山梨の三拠点を結ぶコミュニケーションを電話やFAXではなくメールに切り替えるという取り組みでした。

当時の先輩から「渡邉君、秋葉原でパソコンを買ってきて」と指示を受けて、Windows3.1がインストールされたパソコンを購入したことを今でもよく覚えています(笑)

学生時代からパソコンを使用していたものの、特別詳しいわけではありませんでしたが、先輩から期待をかけていただいたので、目の前の仕事に無我夢中で取り組みました。実際に、その後は現場の従業員を含めて全員がメールを使うようになったのです。

電話やFAXではなく電子メールでコミュニケーションを取ることは、当時としてはかなり先進的な取り組みだったと思います。ニューテクノロジーの威力を肌で感じ、最新のテクノロジーを積極的に使うべきだと考えるようになるきっかけとなりました。

製造業でのDX導入における理想と現実のギャップ

――その後、貴社ではスムーズにDX化を推進できていたのでしょうか。

渡邉:身をもってテクノロジーの威力を感じましたが、ITによる業務効率化を自分の理想どおりに推進できてきたわけではありません。

半導体の事業責任者をしていた頃、点在する情報をまとめるためにはCRMの導入が必要だと考え、上司にかけ合ったことがありました。しかし「グループウエアがあるじゃん、共有フォルダーでやれば出来るじゃん」と言われてしまったこともありましたね。

ただ、その時に抱えていた想いを実現するため、自分自身が社長に就任してからは思い切ったDX化への取り組みを進めていきました。Mipox渡邉様

業務効率化ツールの本格導入でルーティン業務を大幅削減

――業務効率化ツールを本格的に導入したのはいつ頃でしょうか?

渡邉:2011年からは、顧客管理や営業活動を効率化するために、クラウド型のツールを本格的に導入しました。

導入の背景にはさまざまな要因がありますが、実は私自身の気質も関係しています。元々面倒くさがりで、できるだけ楽をしたい性格です。ルーティン業務を効率化することは常に意識しており、会社の生産性を向上させるためには全員が効率化を意識すべきだと考えていました。

また、人に声をかけることによって他者の作業を止めてしまうことも避けるべきだと思っています。社長に就任してからは、私が従業員に話しかけると、従業員は作業を中断して私の対応をしてくれます。社長から何か質問されたら手を止めて対応するのは人間の心理として理解できるのですが、作業を中断させてしまうことには申し訳なさを感じていました。人に声をかけると、その分だけ他者の作業時間を奪うことになるので、あまり良いことではありません。

ルーティン業務をなるべくなくし、また、むやみに人に声をかけるのをやめることを社内で徹底できれば、生産性が上がると考えました。ツールを導入してからはルーティン作業が削減され、人に直接声をかけなくとも進められる仕事が増えました。

製造業DX成功の秘訣は元のツールに戻れない強制的な仕組みづくり

――慣れ親しんだツールを使いたくなる人も多いのではないかと思いますが、新しい仕組みを社内に浸透させるために工夫した点を教えてください。

渡邉:業務効率化システムの中にあるチャット機能を使って仕事をしてもらうために、従来使っていたメールには立ち戻れないような仕組みをつくりました。当たり前の話ではありますが、チャットでなければ仕事が進まない仕組みをつくると、誰もがチャットを使うようになります。改革する際は、シンプルに仕組み化することが重要です。

業務でメールを使う企業は多いと思いますが、経営者の立場からすると、メールにはデメリットが多いと感じます。

例えば、CCに入れなければならない責任者の立場の社員がCCから漏れてしまい、現場でトラブルが起きているにもかかわらず、責任者は何も把握できていないという事態が起きます。また、新しいプロジェクトが進行しているにもかかわらず「私にはそのメールが届いていません」となれば、その人に対して初めから丁寧に説明しなければなりません。メールでのクローズドなコミュニケーションは、コストがかかったり、人間同士の軋轢が生まれたりするのです。

オープンな場所でチャットによるコミュニケーションを行うことにより、情報が見えやすくなり、従業員同士の軋轢も生まれにくく、また情報がストックされて会社の資産になります。

新しい取り組みを推進していく際には、元の方法には立ち戻れないような仕組みをつくり、会社にとってより良い方法を徹底することが大切です。

DX推進で生まれる抵抗勢力にはトップダウン型の意思決定で対応

――DX化するにあたって抵抗勢力が出てくるという話を耳にすることは多いですが、その点はいかがでしたか?

渡邉:たしかにそのような抵抗勢力が出てくることはありますが、そういう方々の意見には耳を傾けないようにしています。もちろん改善提案などの意見は取り入れますが、基本的には意思決定したものを覆すことはしません。

たとえば、「従業員が増えたのでオフィスを一駅先に移転させます」と知らされたときに、抵抗する人はいるでしょうか。家から遠くなるといった不満が出るとは思いますが、決定事項に対して抵抗勢力が出てくることは少ないと思います。

導入する機械の候補としてA、B、Cの3つが提示され、実際にはAが導入された場合に「BがよかったのでAは使わずに仕事をします」と主張する人はいるでしょうか。普通は導入されたAの機械を使うはずです。

DX以外の面では、決定事項に対して抵抗勢力が現れることは多くありません。しかし、DXとなると急に抵抗勢力の話が出てきます。抜本的に変えていかなければならない部分に関してはトップダウン型で決断することが重要で、DX化に関しても例外ではありません。

もちろん現場からの意見は聞きますし、必要に応じて議論もします。しかし、決定事項に関しては基本的には導入する方針で話を進めて、立ち戻れないような環境や仕組みをつくる方向に注力すべきだと考えています。

 

後編では、トップダウンとボトムアップのバランス感やMipoxが進めるカルチャーレベルのDX変革についてお話を伺います。

(後編はこちらから)
取材・文:小町ヒロキ

話し手
渡邉 淳
Mipox株式会社
代表取締役社長

1994年、日本ミクロコーティング株式会社(現:Mipox株式会社)へ入社。 製造現場からキャリアをスタート。 国内外の営業を経て半導体部門部門長、海外支援部門長に従事。 2007年取締役、業績が赤字に転落した2008年に先代からバトンを引き継ぎ代表取締役社長に就任。 社長就任後は、ITツールの導入により営業活動の可視化・情報共有の効率化で全社的な業務改革を行いV字回復を成し遂げる。 製造拠点のスマートファクトリー化に向けて製造業としてのDXの取り組み強化を進める。 常に挑戦し続け、変革し続ける『100年ベンチャー企業』を目指す。