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「2025年版ものづくり白書」から読み解く中小企業の未来戦略

「2025年版ものづくり白書」から読み解く中小企業の未来戦略

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日本の製造業は、エネルギー高や人材不足、国際競争の激化など多くの課題を抱えています。2025年版ものづくり白書では、DX・GXの推進や人材育成、経済安全保障への対応が重点的に取り上げられています。本記事では、白書の要点を整理し、中小企業が取るべき戦略を解説します。
参考:2025年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)

2025年版ものづくり白書の概要と特徴

ものづくり白書は、日本の製造業の現状と今後の方向性を明らかにするために、2001年から毎年国会に提出・報告されている法定白書です。経済産業省・厚生労働省・文部科学省の3省が共同で作成しており、2025年版は通算25回目の発行となります。

2025年版では、日本の製造業を取り巻く環境の変化や業績が回復傾向にある背景、現段階における課題、それに対応するために実施された政策や支援制度などの情報が掲載されています。特に中小企業においては、人材不足、価格転嫁の困難、設備投資の遅れといった実情が具体的に紹介されており、経営力強化や人材育成、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に向けたリスキリング支援や補助制度など、実務に直結する取り組みが重点的に取り上げられています。

また、デジタル化や脱炭素化の進展、人材不足、経済安全保障といった複合的な課題に対し、政府がどのような視点で製造業を支援しているかも示されており、企業が戦略を見直す上での重要な手がかりとなります。

白書の目的と構成

ものづくりは日本経済の根幹を支える重要な要素である一方、海外の動向や働き方の変化などの影響を受けやすく、業界を取り巻く環境が急速に変化しやすい産業でもあります。製造業を健全かつ持続的に成長させるためには、国・自治体や企業、教育・研究機関などが一体となって、積極的な振興を図ることが重要です。

本白書は、このような考え方をもとに制定された「ものづくり基盤技術振興基本法」に基づき作成され、「製造業に関する政府の施策を国会に報告すること」を主な目的としています。また、製造業に関わる企業や各機関が現状の課題に対して共通の認識を持ち、今後の取り組みに関する戦略・方針を決定する材料としても活用されています。

基本的には、「第1部」と「第2部」の2部構成になっています。2025年版の第1部では、日本における製造業の現状や課題、政府の取り組みについて、第2部では日本のものづくりをより発展させるための施策について掲載されています。なお、第1部では、業績や物価、人材動向といった短期的な経営指標について解説されているほか、デジタル化・脱炭素化などの中長期的課題に関する多角的な分析も行われています。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
ものづくり白書は縦割り体制が顕著な政府組織にしては珍しく、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の共同作成ですが、中身を見ると各省が個別に作成したものを結合したもので、有機的な融合表現はほぼ見られません。とはいえ例年第1部の現状分析はデータや事例が良くまとまっており、製造業の経営者、管理者は目を通しておくことを勧めます。
ただし、広くて深いものづくり産業を大局的に観察しているため、戦略判断に適用する場合は自社の独自性に十分配慮することが重要です。

2025年版の注目ポイント

今回のものづくり白書の大きな特徴は、「産業競争力」「GX(グリーントランスフォーメーション)」「経済安全保障」という3つのテーマを柱に、変化の激しい経営環境への適応を総合的に示している点です。これらは相互に影響し合うものであり、中小企業にとっても重要なテーマとなっています。

まず、産業競争力の維持と強化においては、国際的な技術革新や供給網の再構築に対応するため、デジタル技術の活用や多様なニーズに対応した高付加価値製品へのシフトが求められています。特に中小企業では、自社の強みを活かした差別化戦略と生産性向上の両立が必要です。

GXに関しては、カーボンニュートラルへの対応が取引維持や新市場開拓に直結する重要課題とされています。本白書では、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用に加え、バリューチェーン全体での温室効果ガス排出削減を含めたGXへの取り組みを「戦略的投資」として位置づけています。

経済安全保障の観点では、サプライチェーンの安定性の確保や情報セキュリティの強化が重視されています。特に製品設計段階からの安全性の担保や、調達先の多元化によるリスク分散といった対応が重要となります。

これら3本のテーマは、いずれも単独で完結するものではありません。互いに相互作用する要素であるため、複合的に考えたうえで経営に取り入れることが大切です。本白書では、企業ごとに自社の状況に応じた優先順位を見極め、持続可能な経営戦略に落とし込むことが推奨されています。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
企業経営戦略とは結局リソースの配分です。「やった方が良い」案件が無数にある中で、重要案件を見極め、自社の能力と比較しながら現実的な活動計画に落とし込む必要があります。「産業競争力」「GX」「経済安全保障」いずれも大切な観点ですが、背伸びし過ぎることなく真摯に取り組んでいく態度が重要です。

製造業の現状と課題

2024年度は、エネルギー価格の安定や需要回復を背景に、業績が持ち直した企業も多数見られました。2025年版ものづくり白書では、売上や利益の改善傾向が示される一方で、構造的な課題が依然として残っていることが強調されています。特に指摘されているのが、労務費や原材料費の上昇に対して、価格転嫁が進んでいない中小企業の存在です。このような企業においては、系列取引や長年の商慣習により、価格交渉が難航するケースも少なくありません。

また、中小企業では慢性的な人材不足が継続しており、若年層の確保や技能継承の停滞も深刻化していることも大きな課題のひとつとして挙げられています。このような企業では、業務における属人化の解消が進まず、生産現場の負担が軽減されない状況が続いているケースも珍しくありません。

さらに、成長のための戦略的な設備投資や省エネ投資に踏み切れない企業も多いことから、将来的な競争力確保に対する懸念についても記載されています。こうした状況を踏まえ、本白書では官民連携による支援の必要性と、経営判断を後押しする政策の重要性が示されています。

業績動向と投資傾向

2024年度における製造業全体の業績は回復基調にあり、多くの企業がコロナ禍以前の水準を取り戻しました。収益の改善に寄与した主な要因には、エネルギー価格の安定化や海外需要の増加などが挙げられます。

図130-3
出典:経済産業省|2025年版ものづくり白書 図130‐3

その結果、設備更新や省人化、自動化に向けた投資が再開され、DX関連のシステム導入や業務改革も活性化しました。一方で、こうした投資は主に大企業で先行されており、中小企業では限定的であるという実状もあります。

価格転嫁に関しても、交渉力や業界構造の違いから、大企業と中小企業の間には依然として大きなギャップがあります。中小企業では適正価格の実現に課題を抱えるケースが多く、収益改善のスピードが大企業ほど速くない場合がほとんどです。

また、投資推進における障壁として、人材・資金の不足が挙げられます。本白書では、専門人材の活用や外部機関との連携、補助金制度の活用など、課題解消に向けた支援策も紹介されています。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
製造業が比較的堅調である要因の一つとして考えられるのは円安です。製品を輸出する際に海外の競合に対して大きな価格優位性があります。一方、輸入する原材料は高くなり、労働人口減少によって人件費は今後も上昇が続く可能性が高いです。輸出優位性の一部を戦略的に価格転嫁して、給与水準を高め必要な人材を確保し、将来に向けて開発投資して事業を持続的に成長させる必要があります。

図122-6
出典:経済産業省|2025年版ものづくり白書 図122-6

図122-7
出典:経済産業省|2025年版ものづくり白書 図122-7

人材確保とリスキリングの現状

2025年版ものづくり白書では、人材不足が依然として深刻であることが強調されています。特に若手技術者や指導する人材の不足やDX・GXに対応できる高度人材確保の難航により、人材の獲得競争は激化しています。

こうした状況を受けて、既存社員へのリスキリング(再教育)に取り組み始めた中小企業も少なくありません。また、ITやAI、カーボンニュートラルに関する知識習得を目的とした社内研修や外部講座の導入も進みつつあります。

一方で、人材育成に必要な予算の確保や教育体制の整備を十分に行えていない企業も多く見られます。このような企業では、教育・研究機関や国・自治体との連携が欠かせません。本白書では、厚生労働省や文部科学省と連携した職業訓練制度や補助金制度をはじめ、外部講師の活用など、中小企業が活用しやすい支援策が数多く紹介されています。

今後は「技術を持った人を採用する」だけでなく、「社内で人を育てる」ことも求められます。自社に合った教育手段を整備することが、中長期的な競争力の基盤となります。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
大企業に比べると中小企業で優秀な人材を確保することは容易でありません。企業の魅力を高めて採用に繋げると同時に、内部人材の再教育に費用を惜しんではなりません。特に「人間は感情の動物」ですから、単に技術的・技能的な教育だけでなく、業務意欲を高める精神的側面を考慮して教育することで、生産性を大幅に改善できる可能性があります。

DXとGXの推進状況

従来の日本の製造業は「低コスト」や「技術力」が競争力を生み出す源泉となっていました。しかし、近年では国際的な競争が激化していることから、日本の産業競争力の低下が懸念されています。このような状況の中で、DX(デジタルトランスフォーメーション)とGX(グリーントランスフォーメーション)に取り組み、世界的な変化に適応することは、近年の日本企業における重要課題のひとつです。

2025年版ものづくり白書では、これらの取り組みに対する中小企業の対応状況が詳しく示されており、経営者の認識と実行力が結果を左右していることについて言及しています。ここでは、主に中小企業におけるDXとGXの現状と取り組みについて解説します。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の現状

近年では大企業を中心にDXの取り組みが進められていますが、その一方で中小企業における対応の遅れが課題となっています。2025年版ものづくり白書では、多くの中小企業が業務効率化や省力化を目的にITツールを導入しているものの、社内での十分な活用が進んでいない事例が多いことが指摘されています。

図231-2
出典:経済産業省|2025年版ものづくり白書 図231-2

企業のDX推進における取り組みについては、特に経営層がDXの本質を理解し、全社的な取り組みとして主導できているかどうかが、成功の分かれ目となります。経営戦略とデジタル施策を切り離さず、長期的視点で導入・定着させることが求められます。

なお、本白書では企業のDXの成功事例も紹介しており、具体的な例として在庫や工程の管理をデジタル化し、業務の属人化を解消したケースや、IoTとクラウドを活用して生産性を可視化し、改善サイクルを定着させたケースが掲載されています。

一方で、DXが単発的なシステム導入にとどまり、継続的な成果に結び付いていない企業も少なくありません。本白書では、ITベンダーや地域の教育・研究機関との連携、専門人材の活用といった外部支援を取り入れ、効果を確認しながら段階的に取り組むことが推奨されています。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
企業経営の本質は利益最大化と、それによって達成される現在・将来の従業員と製品利用者の幸福最大化であり、DXはそのための手段でしかありませんが、急速に進化するデジタル技術は利益最大化の強力なツールと成り得ることに間違いありません。
順番としてまずは自社の内外環境を整理して重要課題を抽出し、課題達成の方策を創出する中でデジタルツールも比較検討することです。他社事例は参考になるものの、自社の特異性を考慮して採用しないと期待が外れることになりかねません。

GX(グリーントランスフォーメーション)と脱炭素の取り組み

GX(グリーントランスフォーメーション)とは、脱炭素社会の実現に向けて経営戦略を見直す取り組みです。近年では世界的にGXへの取り組みが活発化しており、特に海外企業とのやりとりが多い企業では、取引先からGX対応を求められる場面も増えています。GX対応が不十分な場合は、機会損失や信用評価の低下、取引条件の厳格化といったリスクを負う可能性があります。

2025年版ものづくり白書でもGXへの取り組みを行う意義が強調されており、製造業においては、エネルギー転換や製造プロセスの最適化を通じて温室効果ガスの排出削減を図ることが求められています。

また、本白書では、GXを「戦略的投資」として捉える視点が必要であることも述べられています。たとえば、CO₂排出量の見える化や、省エネによるコスト削減といった施策を経営改善と連動させて進めることが効果的です。

2025年版ものづくり白書では、中小企業における省エネ設備の導入や高効率機器への更新、再生可能エネルギーの活用といった具体的な事例も紹介されています。中小企業においては、自社の業種や規模に応じた取組から段階的に着手することが現実的です。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
企業が社会貢献活動を求められる時代であり、もし、取引先や製品ユーザーから明示的に求められているのであれば積極的にGX活動を進める必要がありますが、もしそうでなければ慎重な調査が必要です。
たとえば長時間照明のLED化/自然採光や、高温設備の断熱投資などは比較的短期間で回収でき、GXと利益向上の一石二鳥の効果が期待できます。自社にとって一石二鳥になる施策を探しましょう。

図422-1出典:経済産業省|2025年版ものづくり白書 図422-1

経済安全保障とサプライチェーンの強化

地政学リスクの高まりや国際情勢の不安定化が進む中、経済安全保障の確保とサプライチェーンの強靱化は、日本の製造業にとって避けて通れない課題のひとつです。2025年版ものづくり白書では、中小企業も含めたリスク管理の必要性が強調されています。ここでは、本白書で言及されている経済安全保障とサプライチェーンのリスク管理について解説します。

経済安全保障への対応状況

2025年版ものづくり白書では、まずDXやGXへの取り組みと比べて、経済安全保障への取り組みを実施している企業・検討している企業が少ないことを課題として取り上げています。特に中小企業では、経済安全保障上のリスクに関する認識はあるものの、対応についての具体的なイメージがわかない経営者も多く、これらへの対策が十分に進んでいない状況であることに注意が必要です。

図430-1
出典:経済産業省|2025年版ものづくり白書 図430-1

図431-2
出典:経済産業省|2025年版ものづくり白書 図431-2

経済安全保障への取り組みが不十分であることのリスクには、重要な設計データや技術情報の流出リスク、外部クラウドの安全性に対する不安、特定の国・企業に依存することの危険性などがあります。本白書では、これらのリスクに対し「情報管理体制の構築」「サイバーセキュリティの改善・強化」「取引先の変更・多元化」などの取り組みを進める企業も増えているものの、「何をすればよいかわからない」とする企業も多いことについて言及しています。

特に、中小企業では専門人材や予算が不足しており、独自に高度なセキュリティ対策を講じることが難しいケースも多く見られます。本白書では、IT支援団体や商工会議所との連携によるセキュリティ診断や支援メニューの活用が有効であるとしています。

経済安全保障の確保は、単なるリスク管理ではなく、取引先との信頼構築や事業継続の基礎としての役割を果たします。今後は、情報資産の整理やアクセス権限の厳格化といった基本対策を土台としつつ、段階的に体制を強化する姿勢が求められます。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
国際的に重要な技術を保有している中小企業は多くないと想定され、「具体的なイメージがわかない」のも理解できます。もし経済安全保障の対象となる技術を保有しているとすれば、価格競争力も高いはずですから、セキュリティ対策にそれなりのリソースを振り向けることも可能でしょう。

サプライチェーンリスクの可視化と対応

2025年版ものづくり白書では、サプライチェーンにおけるリスクの可視化と多元化の必要性も指摘されています。海外依存が高い調達構造のままでは、国際物流の停滞や政治的対立の影響を受けやすいため、事業継続が危うくなるリスクが高まる恐れがあります。

特に中小企業では、限られた調達チャネルに依存している例が多く、サプライヤーの代替確保や在庫体制の見直しといったリスク対応が喫緊の課題です。本白書では、調達先の分散化や代替品の探索を通じて、サプライチェーンの柔軟性を高める必要があるとしています。

さらに、サプライチェーン全体を俯瞰して管理するためのITツールの導入や、リスク感知を早めるための情報共有体制の構築も推奨されています。いずれの施策においても、経営層が危機意識を持ち、全社的な対応を主導することが大切です。

ただし、これらの施策には一定のコストや専門性が必要であるため、補助金や業界団体の支援、自治体との連携など、外部リソースの活用が不可欠です。

さまざまな対策を講じてサプライチェーンのレジリエンスを高めることは、危機管理対応だけでなく、企業の信頼性向上や競争力強化にもつながります。これからの調達・供給戦略では、「効率性」とあわせて「柔軟性」を重視する視点が求められます。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
大規模災害のたびに製造業のサプライチェーン問題が顕在化します。大量に使う原材料・部品であれば2社購買など調達先の分散化も可能ですが、中小企業の使用量では現実的でない場合も多いと思われます。重要資材について購買までに至らなくても、いざとなったら代替できる調達先を調査し用意しておくことがリスク対応になります。

教育・研究開発と人材育成の強化

製造業が持続的に成長していくためには、製品や技術の革新だけでなく、それを支える人材の確保と育成が欠かせません。2025年版ものづくり白書では、特にデジタル・AI・半導体などの成長分野に対応できる人材育成と、産学官の連携による研究開発体制の強化が重点課題として取り上げられています。

中小企業にとっても、こうした分野への取り組みは、今後の競争力を左右する重要な戦略となります。ここでは、ものづくりにおける人材育成の強化と産学官の連携による研究開発について解説します。

デジタル・AI・半導体分野の人材育成

DXやGXの推進が進む現代において、それを担う高度な知識とスキルを持つ人材が不可欠です。2025年版ものづくり白書では、デジタル技術やAI、半導体に関連する人材の不足が深刻であると指摘されています。

特に中小企業では、即戦力となる人材の確保が難しいため、外部人材の活用と併せて自社内での人材育成が必要になります。このような背景から、ITリテラシー向上やAI活用、IoT機器の操作といったスキルの向上を目的としたリスキリングに取り組む企業も増加傾向にあります。

図:デジタル技術の導入のための人材確保の方法
出典:経済産業省|2025年版ものづくり白書 図 233‐1

地方の中小企業においても、社外の専門教育機関と連携した研修や、オンライン講座の活用などによる人材育成が効果的に進められています。本白書では、こうした取り組みが自社の業務改革や生産性向上につながった事例も紹介されています。

加えて、政府や自治体もデジタル人材の育成を後押ししており、補助金制度や職業訓練メニューなどの支援策も従来と比べて拡充されています。このような制度を戦略的に活用することで、段階的なスキル向上が実現しやすくなります。

今後は、「技術を持つ人を外部から採用する」だけでなく、「既存の従業員に技術を習得してもらう」という発想も重要になります。持続可能な組織づくりを行うためにも、社内教育と外部リソースの両方をうまく活用することが重要です。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
AIやIoTの専門家は大手でも欲しがるお宝人材ですので、中小企業での採用は相当に難しいはずです。仮に採用できたとしてもフルタイムの業務量がないと、宝の持ち腐れになりかねません。
そこで外部人材の有効活用が鍵になりますが、業者に丸投げして大きな効果が実現するとも思えません。専門領域は外部に依頼するとしても、AIやITの基本は内部で勉強して、依頼するシステムへの要望を正確に伝える能力だけは習得する必要があります。必要な人員を採用する大企業に対して、中小企業では内部人材の能力に合わせて活動するといった割り切りも大事です。

産学官連携による研究開発の推進

技術革新のスピードが加速する中で、自社単独での研究開発には限界があることは否定できません。2025年版ものづくり白書では、産学官連携による共同研究や社会実装を促進する体制づくりが重要であると述べられています。

大学や高専、公的研究機関との連携によって、企業単独では得られない専門的な知見や研究設備の活用が可能になります。本白書では、地域の中小企業が地元大学と連携し、新素材の開発や製造工程の最適化を実現した事例が紹介されています。

また、研究開発に限らず、マーケティング支援や人材育成などを含む包括的な連携体制が構築されているケースもあります。このようなケースでは、研究開発力の向上にとどまらず、経営全体の底上げにもつながります。

一方で、連携を推進するうえでの課題として、「適切な連携先の見つけ方がわからない」「共同研究の進め方が不明確」といった声も挙がっています。そのため、本白書では、産学官連携を促進するプラットフォームや、マッチングを支援するコーディネーターの役割が重要とされています。

国や自治体による支援事業には、「次世代地域産業人材育成刷新事業(マイスター・ハイスクール)」や「リカレント教育によるエコシステム構築支援事業」なども含まれており、企業の第一歩を後押しする環境が整備されつつあります。

中小企業にとっては、技術や人材の不足を補う手段として、こうした連携を経営戦略に組み込むことが有効です。将来的には、共同開発を通じて新製品を生み出したり、新市場に展開したりする可能性も広がります。

本白書では、産学官が対等な立場で継続的に協力する体制の整備が、製造業全体の底上げと地域経済の活性化につながるとまとめられています。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
以前、産学官連携コーディネーターを拝命し、中小製造業を200社ほど訪問したのですが、なかなか適切な共同開発テーマは見つかりませんでした。ただし近年地方大学や各地の公設試験場は地方産業への貢献が強く求められているため、中小企業との共同研究を心から望んでいます。
簡単ではありませんが、新製品、新技術開発の意向がある場合は、是非各組織の相談窓口に行ってみてください。運よく協働してくれる先生、研究者が見つかれば強力な助っ人となり、補助金申請でも大きな加点になります。

図:事業イメージ
出典:経済産業省|2025年版ものづくり白書 図 314‐1

中小企業が取るべき戦略と政府の支援策

2025年版ものづくり白書は、製造業全体に共通する課題を示すとともに、中小企業がこれらの課題についてどのように対応すべきかについても具体的に提言しています。DXやGX、人材育成、経済安全保障といった重要なテーマは、大企業のみならず地域の中小企業にとっても喫緊の経営課題です。

限られた経営資源のなかで成果を上げるには、戦略的な優先順位の設定と、国や自治体の支援制度の的確な活用が欠かせません。ここでは、中小企業が取るべき戦略や政府が用意している支援策とその活用方法について解説します。

中小企業の戦略的対応

まず重要なのは、自社の現状を的確に把握し、優先すべき経営課題を明確にすることです。たとえば、業務の属人化が課題であれば、「DXによって業務の共通化や可視化を進める」といった対応が考えられます。また、エネルギーコストの負担が大きい場合には、「GXによって省エネと脱炭素を両立させる」といった解決策もあります。このように、中小企業が有効な経営戦略を立てるためには、それぞれの企業が抱える課題に応じた対策が必要です。

成功している中小企業の多くは、「自社ができることから着手する」「外部支援を積極的に活用する」「従業員と目的を共有する」といった基本姿勢を貫いています。たとえば、専門人材の採用が難しい場合でも、地域の金融機関やITコーディネーターの支援を活用し、段階的に改善を進める事例も少なくありません。

また、リスキリングや研究開発といった分野では、産学官のネットワークに参加することにより、自社単独では得られない技術・人材・知見を補完することが可能です。こうした協働の積み重ねが、中小企業の競争力を長期的に高める基盤となります。

本白書では、変化に対して柔軟に対応し、リスクを恐れず挑戦する姿勢が、これからの企業経営に不可欠であるとしています。自社に適した選択を能動的に行うことで、持続可能な経営への道が開かれます。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
各種の改善活動が奏功するかは、やってみないと分からないわけですが、新しい可能性への挑戦は従業員の気持ちを高める効果もあります。企業の将来像、従業員の潜在的要求と自社リソースとのバランスを図りつつ、常に何かしら前向きなプロジェクトを推進したいものです。

政府の支援策と活用方法

2025年版ものづくり白書では、中小企業向けの政府支援策が数多く紹介されています。これらの支援は、資金面だけでなく、人材育成、デジタル化、脱炭素、事業再構築など、経営全般にわたって幅広く整備されています。

資金面でのサポートとしては、「ものづくり補助金」や「事業再構築促進事業」、「省エネルギー投資促進支援事業」などが代表的であり、設備導入や業務改善に活用可能です。要件を満たせば、中小企業でも数百万円単位の支援を受けることができます。

人材育成分野では、ハローワークやポリテクセンター、教育・研究機関と連携した研修制度や費用補助があります。特に、近年拡充傾向にあるDXやGXに関するリスキリングを対象とした講座・助成制度の積極的な活用は、自社の中長期的な成長につながることが期待できます。

また、IT導入補助金やサイバーセキュリティ支援、GX対応に向けた省エネ診断などの制度も整備されており、分野ごとに特化した支援メニューを利用可能です。国や自治体が用意している支援策・制度を複数組み合わせて利用することで、より効果的な経営改善・経営戦略立案の実現が期待できます。

本白書では、これらの制度を「一時的な助け」としてではなく、「経営変革のきっかけ」として活かす姿勢が重要であるとされています。支援制度の目的や内容を正しく理解し、自社の経営課題と結び付けて活用することが成果につながります。

今後は、支援制度を受け身で利用するのではなく、経営戦略の一部として積極的に取り入れていくことがさらに大切になります。国や自治体によるサポートを積極的に取り入れる姿勢が、中小企業の持続的成長を支える重要な鍵となります。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
補助金割合は1/2から3/4といったものが多く、基本的に自己資金も要求されます。補助金を受ける目的で対象となる活動をするのは本末転倒ですが、もし事業を成長させる意向があり投資を考えているのであれば、何らかの補助金(政府施策)を受けられる可能性が高いので、是非調べて利用を検討しましょう。
ただし国民の血税を使う関係上、不正防止のために多くの資料や証憑提出を求められるのが一般的です。
真に有効な投資とならず、単に事務作業を増やすだけにならないように注意してください。

まとめ

2025年版ものづくり白書は、中小企業が直面する人材不足や価格転嫁、脱炭素対応などの喫緊の課題に対し、具体的な支援策や取り組み事例を整理して解説しています。DXやGX、経済安全保障など多様なテーマを統合的に捉え、自社の経営課題に応じた優先的対応が求められています。各種補助金や支援制度、研修制度を経営変革のきっかけとして活用しながら、自社の持続的な成長を目指しましょう。

【監修者:熊坂技術士事務所 代表 熊坂治】
ものづくり白書は絶対的なバイブルではありませんが、経営者/管理者に毎年多くの示唆を与えてくれます。白書ならびに私の解説が貴社の成長戦略を描く参考になりましたなら光栄です。

監修者
熊坂 治
熊坂技術士事務所
代表

東北大学工学部を卒業後、パイオニア株式会社で米国現法駐在を含む30年にわたり研究・開発・生産技術・品質・事業企画などを幅広く経験。独立後は製造業向け課題解決サイト「ものづくりドットコム」を創設・運営し、10年で260万人超に利用されたが2021年にブロードリーフ社に売却。現在は熊坂技術士事務所代表として、多くの企業や公的機関に技術顧問・講師・委員として関わり、複数大学での教育活動も行う。工学博士(東京工業大学)・技術経営修士(専門職)・技術士(経営工学・総監)の三大国家資格を有し、製造業の技術経営・生産性革新・人材育成が専門分野。

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