
年間で約6,000時間の工数削減を実現!福岡運輸・富永社長が考える「DXの本質」とは
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創業から60年以上にわたり、冷凍輸送の分野で日本の食品物流を支えてきた福岡運輸株式会社。代表取締役社長の富永泰輔氏は、「派手な変革ではなく、現場の課題から一歩ずつ改善を重ねることがDXの本質」だと語ります。
自社で企画・開発した物流情報プラットフォーム「TUNAGU」をはじめ、AIやITツールの導入で業務を効率化。社員主体で推進する「T-プロジェクト」により、現場目線でのDXを実現しました。
本記事では福岡運輸のDXがどのように始まり、どのように現場へ浸透していったのか、そしてその過程にあった課題と工夫をご紹介します。
目次
はじめに
福岡運輸株式会社 代表取締役社長の富永泰輔氏は、同社創業者・富永シヅ氏の孫にあたります。富永氏は1998年に東京大学経済学部を卒業後、福岡運輸へ入社しました。
入社後は、神奈川県川崎市にある最大拠点で配車や営業業務を担当。その後、海外留学や国会議員秘書など社外での経験を経て、2012年に社長へ就任。翌年の2013年には、株式会社福岡運輸ホールディングスの代表取締役社長に就任しました。
2022年には「スマート物流の全体最適化」や「物流情報プラットフォーム『TUNAGU』による付加価値創出」、「DX人材の育成と組織体制の強化」の3軸を掲げたDX戦略を策定。
このような現場起点での改善と挑戦の積み重ねが評価され、経済産業省『DXセレクション2024 優良事例企業』への選定に加え、教育DXを推進する取り組みでも『Teachme Biz Award 2023 優秀賞』を受賞するなど、社外からも高い評価を得ています。
トラック待機時間問題が転機に!
物流情報プラットフォーム「TUNAGU」自社開発までの経緯
――まずは貴社がDX化の推進に本格的に取り組むようになったきっかけを教えてください。
福岡運輸株式会社 代表取締役社長 富永泰輔氏(以下、富永):もともと当社では、DX化には積極的に取り組んでおり、パソコンがまだ「マイコン」と呼ばれていた時代から、情報を扱うための仕組みを段階的に整えてきました。DXの推進が大きく進んだきっかけは、2017年頃から大きな問題として取り上げられるようになった「トラックの待機時間問題」です。
当時、業界全体で解決策が求められ、さまざまなIT企業が「バース予約・管理システム」を発表しました。しかし、当社における現場の実態とズレがあると感じていたというのが正直な感想です。
他社が開発したシステムは当社の現場には合わないことを強く感じ、自分たちの業務を軸に、自社で要件を決めてシステム開発を進めることにしました。これが、DX化の推進をさらに本格的に取り組むようになった最初のきっかけです。
――そのDX化の流れを受けて誕生したのが、物流情報プラットフォーム「TUNAGU」なのですね。
富永:そうです。「TUNAGU」は、お客様からの配送依頼や配車計画、リアルタイムの運行状況から請求業務に至るまで、これまで複数システムに分散していた情報をデジタル上で一元管理できる仕組みです。基幹業務の中心である配車計画システムだけでなく、「バース予約・管理システム」に続く、AI受注入力システム、動態管理システム、幹線積卸デジタル管理システムなど、新たにリリースしたシステムも包括するオリジナルのプラットフォームです。
荷主・運送会社・ドライバー、倉庫作業員など、各業務に関わるすべての人々が、業務を効率的に進めることが可能です。
これまで社内、社外の双方向で行っていたFAXや電話でのやりとりを減らし、物流に関わる情報共有をスムーズにしました。「TUNAGU」の構想は自社で行い、開発は40年近く取引のある基幹ベンダーに委託しています。
長く一緒に歩んできたパートナーとともに、「現場の気持ちを大切にした仕組み」をつくろうと行動に移したことが、大きなターニングポイントになったと感じています。

DX推進の最大の壁は「現場への浸透」|全社横断プロジェクト立ち上げで実現した意識改革
――DXを進める上で、苦労したのはどんな点でしたか?
富永:苦労したことは大きく分けて2つあり、1つ目は「投資判断」、2つ目は「現場への落とし込み」です。
1つ目の「投資判断」についてですが、やはりネックになるのは金額の大きさです。我々のような中小企業にとって、本格的なシステム導入にかかる数百万~数千万円の決断には大きな勇気が必要です。今でこそ以前より安価になってきましたが、それでも最初の投資判断には勇気が要りましたし、長年使ってきたシステムを手放すことにも迷いがありました。
2つ目の「現場への落とし込み」についてもやはり難しさを感じましたね。新しい仕組みは一見すると便利に思えますが、現場は何十年も同じやり方で動いていることも多く、すぐに「じゃあ今日から変えよう」とはいかないのです。実際に大幅な業務効率化が実現するなどの目にみえる成果が出ないと、人はすぐには動かないかもしれません。
そこで、当社では各拠点の中間管理職を中心に、DX推進における全社横断型の取り組みとして「T-プロジェクト」を立ち上げ、課題の吸い上げから改善提案までを現場主体で進めるようにしました。
私たちが気付いていない現場フローの問題点も、彼らを通して見えるようになりましたし、
現場の人たちが自分たちの手で変えていくという意識が生まれたのは大きかったと思います。
全社横断型「T-プロジェクト」の実践|中間管理職25名が推進するDX浸透の仕組み
――「T-プロジェクト」について詳しく教えてください。
富永:「T-プロジェクト」とはDXを現場に根付かせるための全社横断プロジェクトです。プロジェクト内に7つのワーキンググループをつくり、1グループあたり4〜5名、掛け持ちも含めて約25名でスタートしました。
メンバーは20代から40代まで幅広く、各営業所の中間管理職を中心にメンバーを選出しました。業務をよく知っているメンバーも多く、本人からも「やってみたい」という前向きな気持ちがある方々に参画してもらっています。
特に意識したのは、「システム担当者だけに任せないこと」です。現場を知る中間層が自分の言葉で語り、部下に伝えられるようになると理解が一気に深まります。また、プロジェクトに関わること自体が人材育成にもなっていますね。
――現場の意識を変えるために、何か工夫されたことはあるのでしょうか?
富永:現場の人たちが「自分ごと」としてDXを捉えられるようになることが重要だと考え、まずは実際に触れて感じてもらうことを意識しました。そして、世の中にある最新のテクノロジーに触れてもらうために、「T-プロジェクト」のメンバーを中心に、さまざまな展示会や外部の見学会に積極的に参加してもらっています。
現場の社員が「これなら自分たちの仕事に使えそうだ」と実感できると、それまで「やらされている」が「自分たちがやる」に変わり、この意識の変化がDXのスピードを大きく左右すると思っています。
「現場を巻き込む」ことは、口で言うほど簡単ではありません。だからこそ、“自分で見て、そして触れた経験”が重要なのです。
紙からクラウドへ。年間6,000時間削減を実現した受領書管理の改革
――DX化の推進の一環として、現場社員の皆さんを中心としたT-プロジェクトの活動による具体的な成果について教えてください。
富永:わかりやすい成果として挙げられるのが、受領書管理の仕組みを変えたことによる業務効率化です。
これまでは荷物をお客様に届ける際に紙の受領書を発行してサインをもらい、それを長期間にわたって保管していました。そこで大きな問題になっていたのが、その紙の受領書を探し出す作業です。
お客様との取引では「納品されたかどうか」を後から確認する場面も少なくなく、その受領書を必要な時にすぐに取り出す必要があるのですが、そこに多くの時間と労力がかかっていたのです。
こうした課題を解決するため、受領書にQRコードを付けてクラウド上に保存する仕組みへと切り替えました。紙をスキャンしてアップロードすると、すぐにデータベース上で検索・照会が可能になります。
この取り組みによって、年間約160万枚の照合作業を自動化し、結果として保管業務にかかる工数を年間約6,000時間削減することに成功しました。
――貴社では、すでにAIの活用なども積極的に行っているとお聞きしていますが、どのような取り組みをされているのでしょうか?。
富永:当社ではAIの活用も積極的に推進しており、FAXで届く発注書をAI-OCRで読み取り、システムへ自動入力する仕組みを導入しました。
物流業界では、今でも多くの会社で発注作業がFAXを使って行われています。5年ほど前までは、受注センターに毎日のように大量のFAXが届き、社員が1枚ずつ内容を確認してシステムに手入力していました。
そこで、AI-OCRでFAXを自動で読み取り、受注システムに直接データを反映できる仕組みを導入したのです。AIが発注書を自動判別し、必要な情報を正確に抽出してくれるので、以前は人の手で処理していた作業の多くを自動化できるようになりました。
具体的な成果が見えたことで、社員の意識にも変化が生まれました。「AIが業務を奪う」ではなく、「AIが業務を支えてくれる」という考え方に切り替わってきたと感じています。
後編では、教育面でのDX活用法や、富永社長が語る経営者としての意思決定のあり方についてさらに深く掘り下げていきます。さらに、DX推進を目指す中小企業の経営者に向けたメッセージも頂きました。
取材・文:小町ヒロキ
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