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デミニミス・ルール撤廃がもたらす越境EC市場の地殻変動

デミニミス・ルール撤廃がもたらす越境EC市場の地殻変動

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2025年8月、アメリカは「デミニミス・ルール」を撤廃した。低価格商品を大量に輸入しても、一定金額以下であれば関税や消費税が免除され、通関手続きも簡素化されるこの仕組みは、低価格を武器に世界市場を席巻してきた中国発の越境ECにとって極めて大きな追い風だった。本稿では、アメリカによる撤廃の背景を整理し、中国大手EC企業の戦略転換と市場の変化を読み解いていく。

デミニミス・ルールとは何か

ここ数年、越境EC市場は中国系プラットフォームの台頭によって急拡大してきた。北米向けの航空輸送の需要も、越境ECの影響で毎年右肩上がりに伸びている。私もフォワーダーとしてこの動きを見ながら、「そんなにEC貨物って動きがあるのか?」とずっと気になっていた。

そのビジネスモデルを支えてきたのが「デミニミス・ルール(de minimis rule)」である。「de minimis」とは「取るに足らない」という意味のラテン語である。通関制度においては、「少額輸入品について関税や税金を免除し、簡易な申告で輸入を認める仕組み」を指す。対象となる金額は国によって異なり、米国では800ドル以下、EUでは150ユーロ未満、日本では1万円以下が基準とされてきた。

もともとは税関業務の効率化を目的とした制度だ。例えば、1個5ドルのアクセサリーを輸入するたびに関税の計算と徴収を行えば、事務コストが商品の価格を上回ってしまう。そこで「小額は免除する」ことで、行政負担と輸入者負担の双方を軽減する仕組みが整えられた。

しかしこの制度は、越境EC、とりわけ中国発の超低価格商品にとって格好の「抜け道」となった。大量の商品が「免税」「簡素通関」として米国や欧州に流れ込み、結果として低価格競争を一段と加速させる要因となったのである。

米国での撤廃:政策転換の背景

2025年8月29日、アメリカはすべての国・地域からの輸入についてデミニミス適用を停止した。これはトランプ政権による大統領令に基づくもので、従来は中国からの輸入に限定していた適用除外を一気に全世界に拡大した形だ。この政策転換の背景には、主に三つの理由がある。

(1) 小口輸入の爆発的増加
TEMUやSheinを経由して米国に流入する低額小口貨物が急増し、税関や物流インフラへの負荷が膨大となっていた。

(2) 国内産業保護の観点
関税負担を免れて安価に流入する中国製品が、米国内メーカーや小売業者にとって不公平な競争環境を生み出していた。

(3) 対中強硬姿勢との整合
関税引き上げや制裁措置と歩調を合わせ、制度面からも中国発輸入を抑制する狙いがあった。

こうして、これまで無税・簡素な扱いを受けていた800ドル以下の商品にも、全面的に関税・税金が課され、正式な通関手続きが求められるようになった。

TEMU・Sheinの戦略転換

この政策転換の影響を最も強く受けたのが、中国の越境EC大手、TEMUとSheinである(図表1・2)。いずれも「低価格」「送料無料」「直送」を武器に米国市場を席巻してきたが、デミニミス撤廃によってそのビジネスモデルの前提が崩れた。

実際、米国向けの出荷量は2025年春から急減しており、第1四半期には前年同期比で約65%減少したと報じられている。一方、欧州向けは同時期に28%増加。広告投資の重点もアメリカから欧州へと移行し、イギリス、フランス、ドイツといった主要市場での露出が顕著に拡大している。

さらに両社は欧州に現地倉庫の整備を進めている。中国からの直送モデルを改め、EU域内で在庫を持ち、そこから各国へ配送する仕組みを強化しているのだ。これにより、EUの150ユーロ以下のデミニミス制度を活用しつつ、配送の迅速化と税務リスクの軽減を図っている。

前年比顧客成長率

前年比売上成長率

マーケットに起きている変化

デミニミス撤廃は、単に一部のEC企業の戦略を変えただけではない。国際物流や通関の現場、さらには市場全体にまで大きな波及効果をもたらしている。

(1) 物流量の変化
米国の空港では、中国からの小口貨物の取り扱いが急減する一方で、欧州向け航空貨物が増加している。航空会社は路線やフライトスケジュールの見直しを迫られており、物流ネットワーク全体の再構築が進みつつある。

(2) 通関業務の負担増
小額貨物にも関税計算が必要となったことで、通関士や通関システムへの負荷が急増している。処理件数の増大により申告エラーや遅延のリスクも高まり、現場のオペレーションに緊張が走っている。

(3) 価格競争力の変動
米国市場では、中国製品の価格優位性が薄れ、消費者の購買行動がAmazonやウォルマートといった国内プラットフォームへ回帰し始めている。一方で欧州市場では、中国勢がシェアを拡大し、地場小売業者との摩擦が強まっている。

日本企業が取るべき戦略

日本のメーカーにとって、この動きは決して他人事ではない。米国市場に小口輸出で攻めるモデルはもはや通用せず、デミニミス撤廃によって「送料無料」「安さ頼み」の戦い方は終わりを迎えた。これからは「安心品質」と「ブランド力」を武器に、値崩れせずに販売できるかどうかが鍵となる。そこにこそ逆転のチャンスがある。

米国では中国勢が価格優位を失い、市場の軸足は「安さ」から「付加価値」へと移りつつある。食品、化粧品、雑貨など、日本ブランドが長年培ってきた信頼と品質が評価される土壌が整ったとも言える。

一方で、欧州は状況が逆だ。中国勢が広告と物流に巨額を投下し、シェアを急速に拡大している。価格競争はむしろ激化しており、日本企業が挑むなら「単なる商品販売」ではなく、「文化やストーリーごと届ける」という発想が欠かせない。

おわりに

デミニミス・ルールの撤廃は、単なる制度改正にとどまらない。TEMUやSheinといった巨大プレイヤーの戦略を揺るがし、国際物流の流れを変え、世界の消費市場そのものに影響を及ぼしている。今後、EUをはじめとする他地域でも同様の議論が進み、「小口免税」という仕組みは縮小、あるいは消滅へと向かう可能性が高い。

そして、それを可能にするのがAIである。通関申告の自動化、在庫や需要の予測、シミュレーションに基づく意思決定――こうした領域にAIを実装していくことは、今後の企業にとって避けて通れない課題となる。

この変化は物流・通関の現場を直撃するだけでなく、企業の戦略そのものを根底から組み替える。制度はもはや“背景”ではなく“競争条件”そのものであり、それに適応できるかどうかが生き残りを左右する時代に入った。

規制の変化をいち早く読み解き、AIを取り込んだ新たなサプライチェーン戦略を描けるかどうか。まさに今、その選択が未来の競争優位を決定づけるだろう。

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執筆者
飯野 慎哉
株式会社HPS CONNECT
代表取締役社長

貿易・国際物流の専門家。 タイと日本でフォワーディング会社を経営し、登録者11万人以上のYouTubeチャンネル”フォワーダー大学”で業界情報を発信中。
【イーノさん】 フォワーダー大学
貿易や国際物流に関するニュース、ノウハウ、仕事術などを発信する、登録者11万人超の物流YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@logisticsyoutuber9977

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株式会社HPS CONNECT

株式会社HPS CONNECTは、タイと日本を拠点に国際物流を手がけるフォワーディング会社です。 タイを含めた東南アジアなど、現地に根差したネットワークと対応力を強みとし、特殊貨物から食品輸送まで幅広いニーズに対応しています。